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おおあさ・大麻・ヘンプ(2)

今回はおおあさの古代史について述べてみたい。古くはBC8000年に福井県鳥浜遺跡から大麻の縄が出土、BC4000には中国の浙江省の遺跡から大麻と絹の織物が発見されている。

ここで話題にしたいのは中国最古の詩集である『詩経』ひん風「七月」の麻に対する記載である。『詩経』といえば、周代に編纂され、雅(小雅、大雅、宮廷の宴会、儀式の楽歌)、頌(祭典の舞楽)、国風(諸国の民謡)に分類される。孔子が各地の歌謡3000余編から、305首選定したとも言われる。私たちが現在目にするものは大毛公(毛亨)の注釈によるもので『毛詩』と称される。

その中の、ひん風「七月」は現存する『詩経』中で最も長い詩である。成立年代は争点となっているが、ここでは周代、だいたい今から2500~3000年前くらいと考えておこう。「ひん(表記できず)」とは地名で、陝西省彬県付近という見解が定説とされている。

内容的には一年の農事暦を歌ったものであるが、古のことであり、漢代においてもすでに一定した解釈はなかったといわれている。また、種々の文字の解読も諸説考えられるので、ここでは、だいたいの解釈を記すのみにしたい。

9月(周の暦で)、麻(どの部分かどんな状態か諸説あり)を収穫し、10月に貢納するとある。麻の繊維が納める対象とされていたかは確定できない。染色の記載から、染めやすい絹が対象と考えられるが、麻との混紡もあったのかもしれない。

大麻を指す漢字は「麻」と「くさかんむりに且(表記できず、ショ、ハと読む)」が使われている。音韻の関係なのか、意識的に書き分けているのか。後者は『説文解字』には、くつの中のしき草とあり、他に実のある麻、粗い、黒い、悪い、という意味がある。ここでは実のある麻という従来の解釈があるが、実を収穫できる、つまり雌株の繊維からできる「布の原料」という記載の例も多い。

ここで整理したいのは、近代以降は麻の雌株からは種を、主に雄株から繊維を収穫している。雌株からとれる繊維は粗く、縄などになり衣料には適さないが、「七月」の村ではその雌株の繊維を利用していた可能性もあるらしい。

また、雄株は「台の下に木(表記できず、シと読む))の文字を当て、大麻の実のできないもの、と解釈されるが『大漢和辞典』には「からむし」ともある。なるほど、からむしは宿根草で、種は非常に細かく、栽培は根で増やす。種は確かにあるが実として食用にできるものではない。しかし、からむし自体種類が多く、いったい何を指すのか、そもそも多くの論争がある。

古のことで、わからないことも多いが、ひん風「七月」の村の人々がどんな麻を育てていたのか、興味のあるところである。当時、麻を刈り取る作業は力の要る仕事で、男の仕事とされていたという。豊富な質のいい水も必要である。『詩経』の記載も、昔からの農事暦を伝承され、また他の農業も兼業している麻農家の方が解読されたら、また新しい解釈が出るかもしれない。もっとも、周代のことであるから、現在の気候とはかなり異なることを考慮に入れなければなるまい。司馬遷の『史記』にも、現代では砂漠化に近いような場所が漢代初期には草ぼうぼうの温暖な気候であろうと思われる記載がある。

時は下って、漢代~唐代あたりのシルクロードにおける、織物の発掘物は、毛織物、絹織物が圧倒的に多いが、トルファンのアスターナ遺跡からは麻と絹で織った布靴も発掘されている。ところが、だいたいは単に「麻」としか表記されておらず、いつも残念に思う。

もう少し前の時代になると、BC500~BC300年のザーホンルック遺跡から出土した女児用の毛織物のワンピースにはその保存状態のよさ、デザインの斬新さにまったくもって脱帽した。2500年近く前の出土品がここまで、ほぼ完全な状態で残っているのは、シルクロードの乾燥地帯、昼と夜との激しい寒暖差、強風による。その自然環境がミイラと共にその副葬品の保存状態を最高に保っていたのである。

2500年前どころではない。NHKの『新シルクロード』でも取材された小河墓遺跡、つまり、4000年から3000年前の遺跡からも色鮮やかなストライプの綴織が出土されている。

織物の歴史は確かに古い。しかも、遠い昔にその技術は頂点を究めているのだ。恐らく女性なのであろうが、彼女たちのテクニックはさぞ卓越していたであろう。今でも機織に興味を持つ女性が多いのは遺伝子のなせるワザであろうか。

麻栽培、歴史の話題からシルクロードの織物の話まで展開してしまった。長い長い歴史を経て、今着ている服がある、と思うと感慨深い。近頃は手織物のぬくもりにはまっている。

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