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パパサウルスの刺激

夏休みの千秋楽も間近に迫った土日、親と子供達の間ではどんな思い出が刻まれたであろうか。おとうさんが汗を拭きつつ宿題の追い込みを手伝っているご家庭も多いかもしれない。

そんな時期、8月26日(土)深夜24:20~24:49、NHK総合テレビで『パパサウルス』が放映された。NHK職員で子育て中のママたちのアイデアをもとに企画されたそうで、父親と子供たちとのコミュニケーションをテーマとする番組である。

出演者である岩井俊雄さんから前もって連絡を頂いていたので心待ちにしていた。NHKの方が岩井さんの本『いわいさんちへようこそ!』を読まれ、お嬢さんのロカちゃんとのおもちゃづくりをぜひ紹介したい、と出演依頼が来たとのこと。

岩井さんはメディアアーティストとして世界で活躍され、今年はマサチューセッツ工科大学のメディアラボでの講演を果たされた。うちの家人は80年代に視察をしたことがあり、その世界での頂点であることは以前から知っている。

その桧舞台での講演の最後に、彼はお嬢さんと楽しんで手作りしている紙のおもちゃ「リベットくん」を紹介する。デジタルの最先端の殿堂で、アナログ、いわば原点の再認識の重要さを投げかけたのであるが、予想以上に受けたという。

MITメディアラボという過去も未来も広く見据える場だからこそ、彼の提起を柔軟に受容できるのだろう。

太古の昔から人間の機能はそれほど変わっていないわけで、今でも人は何かを確かめたいとき、色、手触り、匂い、音、舌で、つまり五感を総動員してで実際に体験しようとする。小さな赤ちゃんは初めて出会うおもちゃをもちろん躊躇なくなめ回し、その舌触り、硬さ、質感などをも探っている。ところが、デジタルのおもちゃの場合、なめても中身のソフトまではわからない。実際に触れて、自分の思うように動かせる(プログラムされていない)リベットくんは、人間の欲求を満足させる何かがあるのかもしれない。

さて、この「リベットくん」、動く紙のお人形や動物、乗り物などは、岩井さんとロカちゃんとのコミュニケーションから生まれた傑作だそうだ。

実は、忙しいパパはお子さんとの関わり方に最初は戸惑った、と番組の冒頭で明かされる。試行錯誤の結果、デジタルのおもちゃは小さな子供には合わない、と直感した岩井さんは得意の絵をツールにロカちゃんに挑む。これがすんなり受け入れてもらい、そのうち一緒に楽しむようになり、さらにアートにまで発展したわけである。そして、ステキな奥様が「いわいさんちに生まれたかった!」とおっしゃる、クリエイティブなご家庭である。

番組の中で語られたように、親が楽しめることを子供と一緒に楽しむ、ということが最も理想的なことだ思う。子供は非常に敏感で大人の中途半端なお芝居は瞬時に見抜いてしまうものだ。ひるがえって、子供自身楽しんでいることは、親にも体験してもらいたい。親が興味を向けると子供は溜飲が下がるがごとく、すっきりするらしい。相互理解、認知欲求ではないか。とくに普段、接触の時間が少なくなりがちなお父さんに体験してもらえば、それはお互いの関係にプラスになることは間違いない。

岩井さんの場合、ご自身のアートの才能をお嬢さんとのコミュニケーションにフル活用し、しかもお仕事の未来の枠をおおいに広げるきっかけとなったようで、まさに一石二鳥ではないか。ロカちゃんとの触れ合いが啓示をもたらしてくれたかのようだ。

ここで、コミュニケーションがうまくいった理由のひとつに、子供のアイデアを採用しながら作品をつくっていく、というように、お子さんと対等に触れ合っていることがあげられると思う。親が得意なことを子供がするとき、親がジャッジすることはよくありがちだ。そのまま受け入れてしまう子もいるだろうが、不満に思う子、甚だしきに至っては、才能があるにもかかわらず、そのことをやめてしまう、もしくは親の前では見せなくなってしまう例がある。

子供から学ぶことは多い。仲間同士の共同作業を基本とし、わからないときは手を優しくひいてあげる。なかなか難しいが、そんなコミュニケーションがスムーズにいくコツなのかもしれない。

もうひとつのケース、小さなお子さんたちとの自転車大冒険!小石川からお台場までの15キロの道のりを3時間かけて走破したのだ。しかも、4歳のお子さんは数日前に補助輪がとれたばかり!これは勇気ある決断だったと思う。一生懸命こぎまくる真剣なまなざし、生まれてから数年の経験、智慧のすべてをかけてこいでいるかのようだった。

これがまたパパとの共同作業。でも手は貸してはもらえない。小さな汗が夏の風に吹かれつつこぼれ落ちる。親同伴の「かわいい子には旅をさせろ、自転車編」。

目的地にはママが赤ちゃんを抱いて待っていた。子供達のたとえようもなく嬉しい満面の笑み。

うちのパパサウルスは、テレビを見ているうちにだんだん自転車のパパに思い入れして、自分も走っている気分になったという。

「自分もやってみたい!!」

こうなると、このTV『パパサウルス』は大成功ではないか。この番組は、パパたちが子供と関わる触媒、起爆剤的存在になりうると思う。

父親が子供たちと濃い時間を持てるということは、母親にとってはパラダイスタイムの創設にもつながる。子育てに追われる母親が自分だけの時間を持つことは非常に大切なことだ。

子育ての環境が変化した今、子育て自体も変容していくものであろう。現代は、母性、父性という役割にとらわれず、智慧を絞って人間を育てていくという姿勢を培いたい。

父性も実は、子育てによってつくられていくものらしい。つい最近の米国プリンストン大学の研究によると、霊長類マーモセットの雄は、子育てに関わるほど神経細胞の構造が変化していき、バソプレシンという物質を受けとめるたんぱく質が増えていた。バソプレシンは、「絆」「情愛」などとかかわりが深い信号を伝える働きがあるそうだ。

この研究成果が人間にも通じるとすると、父親が子供と関われば関わるほど絆が深まり、子供に対してきめ細やかな対応ができるパパサウルスになりうる、ということだろう。また、その前の段階である父親学級の普及はもとより、きょうだいが少ない家庭で育った世代には、知識、技術としての子育て講座の充実が必要ではないだろうか。

上記までの話は、現在日本に多発している家庭内でのマイナスの問題に一石を投じる可能性もある。

子育てが困難な家庭に対し、家庭内で解決できないときは公的な機関が援助するが、日本の場合は模索状態にあるようである。公的機関が援助しようにも拒否する人、そもそもその存在を知らない人。

英国では保護施設から、利用施設、そして、出向いていくアウトリーチホームビジティング(家庭訪問・滞在型の福祉サービス)へと拡大している。

研修を受けたボランティアを問題を抱えた家庭に派遣し、一緒に子育てをしていくスタイルで、成果が上がっているそうだ。日本はその流れに遅れをとっているという。日本の自治体が派遣するヘルパーはすべてを行うため、却って親の依存傾向が強まるようで、それもよしあしらしい。

また、公的機関の知名度を高める工夫も望まれる。立場変わって、子育てを取り巻く環境をヘルプしたいという民間団体には、子育て支援基金というものがある。今年も9月から10月末まで募集しており、主旨に合えば助成金が出る。

このように、福祉の世界では様々な研究、試みが進んでいる。しかし、まずは原点を見つめ直す必要もあるだろう。両親がそろっている核家族においては、一番そばにいる父親の子育て参加を推進したい。その意味で父親たちを刺激するTV『パパサウルス』はぜひ、シリーズ化してほしいものだ。

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