この夏は、初っ端から子供達を中村不折の書道博物館、子規庵、若冲展、岡倉天心の五浦の六角堂、野口雨情生家、栃木の高木盆栽美術館など、シブめな場所へ同伴していた。
六角堂は夢殿を模しているとされていたが、最近では杜甫の草堂である六角亭や仏堂の特質を持っていると考えられている。目の前に広がる大海原ーまさに横山大観の海ーからは岩に砕け散る波濤の大合唱。三宅島音頭「心の洗濯しにおいで♪」のごとく、魂がザブーンザブーン洗われ、揺さぶられる響き。
全身に浴びる音の刺激、これはその場に行ってみなければわからない。ここで天心は瞑想していたのだ。この環境はきっと脳に大きな働きかけをしていたに違いない・・・とクオリアに思いを馳せていた。
博物館系が多かったので、音楽系も、と考えていたところ、ちょうど茂木健一郎さんのブログでこれぞと思うコンサートの紹介があった。
東京フィルハーモニー交響楽団の「こども音・楽・館2006」
さっそくチケットを購入し、その翌週に体験してきた。早いもので東京オペラシティも10周年。
開場時間前に到着したのだが、喫茶去、ということで、チケットを切ってもらったのは開演20分前だった。もっと早く入ればよかった!
ロビーではたくさんの子供達のオーラが楽しく跳ねている。リードに見立てたストローをブーブー、ビービー鳴らしまくり、自分の背より高いコントラバス の音を果敢に出し・・・。みんなの目がいきいきと輝いている。見て、触って、吹いて、弾いて、体験型は体にしっかり染み入る。
ジャーン、チャラララン、チャラララン♪
モーツァルト 交響曲41番 ジュピター 第一楽章
あれっ、なんてスローでソフトな出だし。日頃聴いているレヴァインのウィーンフィルはもっと力強く荘厳。どちらかというと40番の方が親近感を覚える。子供たちも40番好み。
この雰囲気なら気張らないでいけそうだ。私にとってはハーブの聖地、日野春ハーブガーデンで植物の旺盛な生命力と清涼な空気に身をゆだねたあと、これまたお気に入りのリゾナーレでまろやかなロイヤルミルクティーを飲み始めたような、そんな午後のひとときを髣髴とさせる心地よさを感じた。
そうそう、茂木さんのブログに、指揮者チョン・ミョンフンさんの言葉で「出だしのテンポが速すぎてはいけない!」とあったっけ。
というのもあるが、ひょっとしたらオーディエンス、思ったより年齢層の低い子供達への配慮があるのかもしれない。いきなり、威圧的な音では構えてしまうかも。などといろいろ考えつつも東京フィルの澄んで調和した音と同化していった。
会場の子供達は思いのほか静か。イントロに登場した声の主(実は子供時代のモーツァルト)の次回の登場を待っているのではないか?近い未来への期待感が会場を引き締めている。
ジュピターが終わった後、影絵のモーツァルト、ゲストの茂木さんが登場。ミョンフンさんは、幼い頃はピアノとチョコレートが一番だったが、奥様と出会ってからは順番が変わった、と始める。うーん、おしゃれ!ここで茂木さんが「チョコレートと妻」に反応すれば、対話になったのにな~と思ったり。漱石の餡子好きにせよ、脳をよく使う人は甘味系アリンコなのかもしれない。
しかし、茂木さんの「蝶の音に敏感だった少年期」というのには、新鮮な驚きを覚えた。ヒラヒラというオノマトペイア以外の、実際の音なんて考えたこともなかった。すべての感性を総動員して蝶との出会いを求めていらしたのだろうか。
魔笛 は会場を駆け抜けるパパゲーノの華々しい登場からスタート。たちまち会場は嬉しくどよめいた。おー!ホントに関西弁で歌ってる。晴雅彦さんらしさ、パパゲーノらしさが更に際立つ感じだ。誰かがおもむろにパイプオルガンの前に現れ、歌い始める、その正体は夜の女王。周り中から、
「わー!そうだったのかー」
現象を目の当たりにしながら答えを得られない間の脳の中の検索、あるいは空白の感覚がなんともいえない。そして「そうだったのかー」とひざを打つ瞬間、まさに脳内稲妻がピカッと光るのである。それは一種快感をも伴う。
台本は「一つの番組の台本を書くのに50冊本を読む」放送作家の富樫香織さん、ということで期待通り。子供達のこころを引っ張り込み、ワクワクさせていた。
夜の女王は午前中の発声は少々きつかったようだが、午後はきっとうまくいったことであろう。パミーナ役の松田奈緒美さん、彼女はこれからすごく伸びるに違いない。ぜひ多くの作品を聴きたい。古典も似合いそうな声である。
2回目の茂木さんのトーク。瞬間集中のコツ、そしてモーツァルトといっても好きで聞くのが一番!、これこそポイントだ。心身にいいから、とサプリメントのように義務的に飲むより、食べたいものをおいしく食べるのが実はシンプルに健康的だったりする。
我が家は自分が聴きたいから単に流しているだけで、そのうち子供達は交響曲は全曲馴染みとなり、あるとき「宿題するからモーツァルトをかけてくれないか」となったのである。このときはディヴェルティメントをリクエストされる頻度が高い。
再びジュピター。今回はテンポが速まり、勢いがついている、が、ヴァイオリンがとてつもなく優しい。妖精たちが手を大きく広げてウィーンの森へいざなっているようだ。
〆の歯切れのよさはザルツブルグの青い空へ白鳩が一斉に飛び立ったよう。ミョンフンさんは粋だな、と思った。
最後のコメント、「音楽は愛を伝える」とさらり。しかし噛み締めるように語るマエストロは、久々に感じるオトナ。指揮者の人となりが曲を仕上げるものだと妙に納得してしまった。
何よりも会場を舞う音楽に慈しみを感じる。子供達同伴のたくさんの天使達も手伝っていたかもしれない。それを自然木のシューボックス型ホールが受け止め、包み込んでいるのだ。
アンコールのフィガロの結婚 も大喝采、高揚感と共に終了した。夏休みの宿題もこうやってスカッと仕上がればよいのにね。
終了後は出演者によるサイン会があるというので外へ出ると、なんといきなり先頭になった。チケットを購入したのが直前で、1階S席の最後列だったのが幸いしたようだ。
DSソフト、エレクトロプランクトンの遊び方を教えて下さった岩井俊雄さんが茂木さんとテレビで対談したものだから、茂木さんにも会ってみたいと子供心に思ったらしい。フラワーピッグを描いて頂き、握手もして頂いてごきげん。あとからロケットを描いてもらっているのを見て、口惜しそうにしていた。蝶の話や脳の話が聞ければ理想なのだが、直にお会いできただけでもよき夏の思い出、刺激になったことと思う。
昨年の夏、東京国立博物館のイベントに参加していたら、ちょうど天皇皇后両陛下がお越しになられ、子供は最前列で握手して質問されるなど、そんな運も持っているようである。
ところで、茂木さんのサイン、フラワーピッグは丁寧に花びら7枚、名前も楷書でフルネーム・・・・
思い出した。ドラネットの国語、作文指導でも知られる宮川俊彦先生が瞬時に書きあげるサインを読めなーいとつぶやいたら、「いいんだよー読めなくて、これがサインだ、ハッハッハッ」
空白(茂木さんのブログ参照)を本人自ら塗りつぶしているような気がしないでもないが、そこが彼らしさなのかもしれない。
日照りに溶けるチョコレートとなりながら、家路につく。子供達の鼻歌はジュピター。今日は生演奏で2回、しかもここのところCDでよく聴いていたものだから、頭の中もコンサート会場と化している。
むんむんする玄関では、ノコギリクワガタがさなぎを脱いでいる最中だった。がんばれ!!
モーツァルトの音楽は、人がさなぎを脱ぎ捨てるきっかけを作ってくれるかもしれないな。
さて、CDに描いて頂いて連れ帰ったフラワーピッグくんは、長時間グルグルぐるぐる回って目を回している。
スーフィーのダーヴィッシュ(旋廻舞踊)のように、フラワーピッグはモーツァルトと共に天と地をつなぎながら旋廻する!
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お香で感性Lessonもよろしく。
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